「これ……は。」
 森に入った時から何か違和感を感じていた。
まるで誰かに操られているような……そんな感覚。
 歩いていたら川に出た。その川を渡った瞬間何か空気が変わると言うか奇妙な印象を受けた。
そしてそれは勘違いではなく確かな感覚だった。
「何と言うか……すごいですね。」
 視界は歩いてきた冬の終わりの森ではなく、先ほどまでとは違う色鮮やかな花を咲かせる木々が立ち並ぶ森。
「この森で狩りは無理だろ。」
「カケラが関係しているのは間違い無さそうですね。」
 レオンが言う。
またアレが出てくるのか……。
「何時ぐらいからカケラが動き出したんだろう、な!」
 両脇から狐が襲ってきた!
剣で斬り落とし蹴り飛ばす。狐は戦意を更に燃やし牙を剥いて俺を見ている。
「ふぅ、狐が相手か。」
「気をつけてください。ただの狐とは思えません。」
「分かってるよ。この森に居る以上は普通じゃないくらいは。」
 数は三匹。
「集まってくる前に先へ進みましょう。」
 俺が駆け、キカが続く。レオンは後方で気合を溜めている。
目の前で爆ぜる風。狐が黒煙から顔を出して噛み付こうとするが剣をそれを受け横からキカが殴り飛ばす。
キカの攻撃の隙を突いた狐を剣で斬り上げ伏せている狐に剣を突き出す。後に飛び退く事で避けるが踏み込んで薙ぎ払う。
薙ぎ払いに二匹を巻き込む。内一匹は霧と消えた。
「きゃ!」
 レオンの声に振り向くとレオンの周りにも狐がいる。
「ちっ。」
 反転してレオンの周りにいる狐を追い払う。
レオンを背に狐を睨む。キカが狐を後から攻撃し注意をそちらに向けさせ、キカに向かったら俺が攻撃する。
その合間にレオンの攻撃が狐達を消滅させる。
「お前の攻撃はすごいな。狐が一瞬で消えた。」
「えっとユイン君もキカさんもいるから集中出来る時間を作れますから。」
 照れるレオン。
「これからはレオンさんから離れずに闘う方が良さそうですね。」
「キカが突っ込まなきゃ大丈夫だよ。」
「ユイン様が先に走るんじゃないですか。」
「いや、お前だ。」
「いえ、ユイン様です。」
 言い合う俺達。
「さ、行きましょう。」
 いつの間にか先に行っていたレオンが声を掛ける。

 この森はなんなんだ……。
討伐隊として参加して渓谷に向かった。それが昨日のはず。
渓谷の盗賊のアジトには人気は無く森に向かったのが岐路だった。
 森に来たら何かに誘われるように足を踏み入れ……討伐隊の皆がおかしくなってしまった。
「くっ。」
 さっきからしつこく襲ってくる狐。何度倒しても起き上がってくる。それに数も増えてきている。
足を止め槍を振り回し牽制する。後からも唸り声。半身に構えて視線だけで確認する。
狐ではない。人だ。討伐隊で見た顔もいればそうでない顔もある。
声を掛けようとするが周りには狐が従っている様子を見るとどうやら……。
 襲ってくる狐。それに合わせて討伐隊で見た顔の人達も襲ってくる。
狐と闘うかと思ったが、案の定そうではなかった。
 このままここで……なんて事は出来ない!
岩を背に狐を払い、討伐隊を叩き伏せる。
「しつこいな……まったく。」
 痛みを感じないのか狐も討伐隊も何度も立ち上がる。
狐の数は増えてくるし……逃げようにも囲まれてるし……。

「あれ!」
 キカの指差す先には人が座っている。
キカの声に反応してこっちを見る。近寄ると辺りには何人も倒れている。
「おい、大丈夫か?」
「ユ、ユインロット王子。何故……?」
 傷だらけの体。
「迎えに来たんだよ、何があったんだ?」
「それは僕が教えて欲しいですよ……。」
 そのまま気を失った。
「レオン、怪我を。」
「分かりました。」
 レオンは何か札を取り出して、何か呟く。
札が輝くと俺達が負っていた傷が癒えた。レオンを見ると嬉しそうに微笑んでいる。
「あ、俺はどうして……。」
「ここは……?」
 倒れていた男達も起きて状況を確認している。
慌てて逃げようとする者を取り押さえたりしている様子だともう大丈夫そうだ。
「事態がさっぱり分からんな。」
 討伐隊には先に街に戻る様に指示を出して帰らせた。
「お前も帰れ。」
「いえ、ここで何が起こったのか知りたいので。」
 倒れていた男の内の中で最後まで意識を保っていたこの男。
「家族が心配してるぞ、ほら後は任せておけ。」
「大丈夫ですよ。宿代もちゃんと払ってきてますから。」
「そうじゃなくてだな……宿代?」
「ええ、討伐隊には志願しました。」
「傭兵ですか?」
「違いますよ。傭兵なんて僕には無理です。」
 見た目は学生っぽい。運動よりは勉強ってタイプに見える。
「で、なんで討伐隊に参加したんだ?」
「僕の尊敬してる人ならこうするだろうって思って。」
 うーん、答えになってない様な気がするが、本人は真剣な顔だし……本人が満足してるならまぁいいか。
「僕は<ロナ・ハーレイク>って言います。」
 自分のペースで進んでいく奴だな。
「で、ロナ。戻る気は無いんだな?」
「はい。」
「どうなっても知らんぞ?」
「それは楽しみですね。」
 無邪気な笑顔。スリルを楽しむ性格なのか能天気なのか……。どっちか分からんな。
「じゃ、ついて来るなら何が起こったのか教えろ。」
「良いんですか?」
 キカが袖を引っ張ってロナの聞こえない所で小声で話す。
「良いも何も来る気なんだからしょうがないだろ。」
「カケラが出たらどうするんですか?」
「それは……しょうがないだろ。」
「巻き込むのは危険かと思いますが。」
 レオンもキカに加勢。言いたい事は分かるが、
「下手に置いていったりしてもついて来ると思うぞ、それなら四人で行動した方が危険は少ないと思う。」
「それは……そうかもしれませんが。カケラの事はどう言うんですか?」
「……見せれば一発で分かるだろ。アレは。」
 黙る二人。俺だって危ないと分かってるのに連れて行きたくは無い。
「旅は道ずれって言うでしょ、さ、討伐隊に起きた事を話します。」
 近くに来たロナが心配する二人に笑顔を向ける。

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